The 有田の「恐竜シリーズ」は、チームワークにより完成した作品群です。そのチームワークは、大別すると「形状デザイン」の役割と「絵付け」の役割に分かれます。
主に5人の絵付け作家による「恐竜シリーズ」は、基礎となる「形状デザイン」の技術に支えられています。「形状デザイン」を担うのは、アトリエ やま 山下行男さんです。ひとことで「形状デザイン」と言いますが、次のような作業プロセスを段階的に踏んでいきます。
①デザイン→②型作成→③鋳込みによる成形作業→④素焼き→⑤施釉→⑥本焼き
そして、各々の作家は、染付の場合は「素焼き」を、また上絵の場合は「太白」を受け取ります。(「太白(たいはく)」とは、釉薬をかけて本焼きした後の白磁の状態をいいます)
そこから「絵付け」というステップに進めるわけです。
【アトリエ やま 山下行男さんのこと】
長崎県窯業技術センター、退職後に独立
アトリエ やまの代表 山下行男さんは、長崎県窯業技術センターに42年間勤めあげ、すぐにこのアトリエを起ち上げました。設立以来16年になりますが、組織の中で培ってきた技術や知識を、創作活動で確かめてみたかったのです。何より自分の作品を直接お客様にお届けし、そして喜んでいただくことを実感したいという強い思いから、このアトリエを設立されました。
現在は「OKIMONO」の動物シリーズを手掛けており、その中でも干支が根強い人気を誇っていて、秋口が引き合いの集中する繁忙期とのことです。干支のシリーズは、有田町や波佐見の商社を通して、全国にお届けされています。
どんな苦労がありますか?
「苦労していることは?」とお聞きしたら、「いえ、楽しいです」という答えがきっぱりと返ってきました。やってることに苦しいことはない、(苦労と思えることは)何とか乗り越えてきたとのことでした。窯業技術センターの時代には、様々に山積する問題に頭を痛めてきたが、当時の苦労に比べたら、今はほとんどが楽しみに転化できることになっているそうです。
最終仕上げや検品に、前職が活かされています
しかし「そういえば」という言葉から、現在の作業的骨折りはあるな、との話が出てきました。山下さんは、窯業技術センターにおいては、製品の完成度や正確さ、瑕疵(キズ、欠陥など)の有無について、厳しく管理してきました。その仕事上の習性は、今でも創作活動に活かされています。製品の最終仕上げ段階での磨きや検品には、ひときわ目を光らせます。眼鏡を変えて、強い光を当て、目から涙が出るほどに表面の瑕疵さがしに集中化しています。驚くほど小さな点、言われなければ気づかないほどの焼成等による欠点も、不良品として排除しなければいけません。
実は、そばで微笑む奥様も、施釉(釉薬かけ)や磨き仕上げ、検品などのサポートのほか、事務や商品の発送、ギャラリーでの接客など様々な仕事に携わっています。作家としての山下さんの夢をご夫婦で共有されているようです。だからその日のひと仕事終えての晩酌は、山下さんが焼酎のお湯割り、奥様はビールで仲良く過ごされているとのことです。
恐竜シリーズの「形状デザイン」での提供について
今回、恐竜シリーズを「形状デザイン」の状態で、絵付け作家さんに提供することについて、どんなお気持ちかおうかがいしました。それに対するお答えはこうでした。
私の作品は「形」を重視した白磁のデザインを特徴にしています。そのため、模様を施すことはあまり考えていませんでした。ところが数年前から私の作品に絵付けをさせて欲しいという方が何人かいらっしゃって、最初はあまり気乗りがしなかったのですが、提供させていただきました。そしたら中に素晴らしい模様を付けられる方がいらっしゃって、「自分の作品が、また別の作品として生まれ変わって羽ばたいていく」そんな姿が感じられてすごく感動いたしました。
私の形状デザインが皆様のお役に立てればこれからも協力させて頂きたいと思います。
お客様へのメッセージとして
最後にお客様へのメッセージをお聞きしました。次のように答えていただきました。
私の作品は、シンプルでモダンなデザインを志向しています。それは、お客様のライフスタイルや住環境とのマッチングを大切にしているためです。しかし、シンプルモダンは、ややもするとクールで硬い印象にもなりがちです。そのため、自分らしさを生かして「暖かさや穏やかさ、ユーモア」が感じられる作品作りに努めています。また、単に「かわいい」だけでなく、品格が感じられるデザインを心がけています。
アトリエ やまには、数多くの動物たちが展示されています。実際にアトリエやギャラリーに触れたら、また新しい発見ができるかもしれません。そしてここでは、何より、作家山下さんと、活動を支える奥様の穏やかな笑顔が、皆さまのお出でをお待ちしています。