菊本有花さんのことを紹介するには、多くの説明文が必要なようです。でも、できるだけ彼女の特徴を、分かりやすくお伝えするために、次の3つの内容に分けてご説明したいと思います。
Yukaさんは、「学ぶ」ことを続けています。そしてあくまでプロの「表現者」として、存在感を強めつつあります。さらに自己の領域にとどまらず、周囲と「つながる」行動も起こしています。
これまで有花さんが「学んで」きたこと
Yukaさんは、香川県で生まれ育ち、愛知の大学(国立・愛知教育大学)でプロダクト・デザインを学びました。このころは、陶磁器・ガラスなどの食器、照明など日用品を含むリビング関連の製作に携わってきました。
そしてそれらのノウハウを活かすインテリア・コーディネートの仕事を経た後、なんとイギリスへの留学に向かいます。イギリスでは陶器の産地として知られるストーク・オン・トレントで、働きながら大学院へ通いました。
イギリス大学院→帰国→佐賀県有田町へ
ここでは主に「陶芸デザイン」を習得しましたが、単に器のデザインにとどまらず、大量生産の鋳込みの技術等も叩き込まれることになります。
イギリスでの留学中に、フランス・パリでのメゾン・エ・オブジェ(欧州最大級のインテリア・デザインの国際見本市)の場で、佐賀県有田町のある窯元さんとの出会いがありました。その窯元さんには、海外進出の意向があり、英語が出来て、陶磁器のデザインに強いYukaさんのような人材が求められていたのです。
帰国後のYukaさんは、その窯元「李荘窯業所」に所属し、現在はデザイニング・マネージャーとして、この場での創作活動に従事しています。ただし、彼女の活動の場は、窯元内の創作で完結するわけではありません。
陶芸デザイナー作家としての有花さん
Yukaさんは「Yuka Kikumoto Designs」という独自ブランドを展開しています。有田焼の磁器づくりにおいては、ムダを削いだミニマルでシンプルな形状と、リビングやインテリアのノウハウによる「ちょっとしたアイデアを活かす」機能性との融合が特徴的です。
また彼女の表現者としての思いには、次のような変化があったようです。一般に海外にいるときは、我が国ニッポンを意識しがちであり、「日本の文化」を作風に取り込むことを意識しがちです。彼女もそうでした。しかし、帰国してからは、より「自分らしさ」を出す表現に意識がシフトしたようです。
ところで、Yukaさんの過ごしたイギリスでは、陶芸家のことを一般に、CeramistやPotterと称しますが、そのイメージからはロクロを使う土もの作家の姿をイメージします。そうではなく、Yukaさんは、製作のみならず、その一歩手前のデザインからスタートさせることにこだわり「陶芸デザイナー作家」というタイトルを用いています。
そこには、自分のデザインしたものを他者に委託して量産させる、という展開も視野に置いた、プロの覚悟もほの見えるかのようです。
有花さんの「つながる」行動力
Yukaさんは、2016年(有田町の陶業400年の年)に有田町に移住しました。当初は、イギリスで学んだ製法との違いに戸惑いもあったようです。たとえば素焼きの温度の違い、ロクロの回転方向の違い(真逆)、石膏型の鋳込み口の付け方や形の違いなどなど。
でもYukaさんはめげません。ここでも彼女の「学び」の姿勢が発揮されます。有田焼には有田のやり方がある、ということで地元の工業高校夜間部で、一から製法を学びました。
この有田の地は、多くの窯元の存在があり、同時に細かい分業に支えられた事業構造があります。Yukaさんは、多くの窯元から勉強させられることが多いと言います。同時に、細分化された分業の仕組みからは、各々の専門業者が細かい相談にもよく乗ってくれて助かるとも述べています。
たとえば、うつわの形の相談に乗ってくれる石膏の型屋さん、釉薬の相談に乗ってくれる原料屋さん、生地を作ってくれる生地屋さん、土を作ってくれる陶土屋さんなど、それぞれの道のプロがYukaさんの創作をサポートしてくれているのです。
陶芸シェアアトリエ『スタジオ スポンジ』のこと
そこでサポートされるだけのYukaさんではありません。やはりイギリスで学んだことの中に「シェアアトリエ」という取り組みがありました。自分が学んできたことを自由に使える場、数人が集まり互いのノウハウや情報交換の場ともなり、切磋琢磨の場ともなる…そんな場所です。
その陶芸シェアアトリエを2021年4月に、自分たちの手作り感覚で立ち上げました。それが彼女が代表となる「スタジオ スポンジ」です。
名前を決めるのに、陶芸の道具を列挙していきましたが、その中で「スポンジの響きがかわいいね!」ということでこのネームになったそうです。あらためて言うなら、「スタジオ スポンジはいろいろな人々が集まって、技術を教え合い、スポンジのように知識を吸収できる場所を目指して名付けられた」わけです。
菊本有花さんの、どこでもいつでも「学ぼう」とする姿勢、「表現者」としての譲れないこだわり、そして自己の世界のみで完結しない「つながり」の行動。これらの属性が、「Yuka Kikumoto Designs」ブランドの成長を約束しているように思います。