あかね工房さんは、有田町の戸矢という地区、長崎県との県境に近い場所で静かにたたずんでいます。工房の場所は、高台の峠付近に位置しています。周囲は緑に囲まれ、そばには田畑が広がります。
ここは自然の恵みに満たされた環境の中にあります。こういうところで暮らしていると、こんな温かい空気が、ご家族の中から醸し出されてくるものなんだ、と感じました。
都会から訪れるお客様も時々あるとのこと、皆さん、驚きとともに羨望の思いを持たれるそうです。
恐竜シリーズ・アニマルシリーズ 絵付けの骨折り
この日、お話を聞かせていただいたのは、山口祥子(さちこ)さんでした。ご主人と娘さんの三人暮らしです。
今回の「恐竜シリーズ」「アニマルシリーズ」についての創作上のお話をお聞きしました。
あかね工房さんの作品には、色とりどりの鮮やかさがあります。完成作品には、感心するばかりですが、創作の途中段階には、いろんなご苦労があるようです。
たとえば、多くの色づかいをする場合、ほぼ色の数だけ焼成の回数が増えます。そして、その回数分だけ、作品を手で持つスペースが狭くなってくるのです。手描きですから片側の手で持ち、もう片側で筆をとります。
これが一般的な器などであれば、ある程度、手持ちの余地があるわけですが、恐竜やアニマルなど複雑な形状になると、どこを持っていいか分からないという状況になることもあります。
お客様が来たら、そっと隠す理由
もうひとつ、私たちが気づかないご苦労もあるようです。
あかね工房さんの作品づくりのスタートは、太白からです。太白とは、素焼き状態の素材に、一度釉薬をかけて本焼きし、真っ白の、いわゆる白磁の状態になったもののことです。
これの取り扱いについては、相当気を使っているそうです。というのは、人の手の油、それに手のクリームなどが太白の表面に付くと、その後の絵付け作業で、太白の上に絵具が乗らないのです。いったんそれらが付着すると、お湯を使い何度拭いても取り除くことができないそうです。
だから、お客様がいらっしゃったとき、「あら、カワイか~!」と言って制作途中の作品を触られるときなど、(口に出して言えず)心の中で沈み込むそうです。最近では、お客様がいらっしゃったら、それらをそっと隠すとのこと。そうですね、それがいいですね。
あかね工房さんの色研究のヒントは?
あかね工房さんの色使いには、特徴的なものがあります。工房の展示品を、概観だけですがご覧になってみてください。このページの最下段に工房の動画があります。
これらの作品は、ご家族三人がたとえば「デザイン」「成形」「絵付け」などに役割分担しているのですか?と聞いたら、そうなる場合もあり、そうでなく、お互いにあれやりこれやりという風に境目のないお仕事ぶりのようです。
やはりご主人も、自身が構想したものは、成形から絵付けまで自分で手掛けるということが多いそうです。
奥様の祥子さんは、確かに色については、常日ごろからあれこれ思いを巡らすことが多く、テレビや映画を観てても、つい色研究の目で見てしまうとのことです。この色には、どんな色が合うのか、自分以外の人はどんな感性でそれらを組み合わせているのかなど。たとえば、黒柳徹子さんの、あの派手なファッションは、これまでよく参考にしたことがあったそうです。
楽しく取り組んでおられます
この三人で、この恵まれた自然環境の中において、ものづくりに勤しんでおられます。ご家族の笑顔の中から、こんな温かみある作品が生み出されてくるんだなと納得しました。
最後に、この恐竜シリーズ、アニマルシリーズは、「やってて楽しい」と仰いました。その言葉を聞き、私は個人的にも大変うれしくなり、このプロジェクトはきっと成功するのを確信した次第でした。