幸楽窯で「買う」「体験」する「宿泊」する
有田町の西部、丸尾という地区に「幸楽窯」というユニークな窯元があります。この幸楽窯を、まず何から説明したらいいか迷ってしまうほど、同窯元は、バラエティ豊かなモノづくりの展開、マーケティングの展開を実行されています。
徳永隆信さんは、2010年に代表取締役として社長に就任し、多くの経営革新を実践してきましたが、それ以前から、この会社 幸楽窯 徳永陶磁器株式会社には、時代を進取する歴史が積み重ねられてきました。そのことは、あらためて別項でご紹介したいと思います。
現在の幸楽窯は、消費者向けのパンフに「買う」「体験」「宿泊」の3つを挙げています。
「買う」については、マスコミや旅行会社でよくとりあげられるトレジャー・ハンティング(”うつわ”の宝探し)、「体験」については、工場見学・ろくろ体験・各種絵付体験など、「宿泊」については、大部屋も可能、長期滞在も可能な「泊まることもできる窯元」をうたっています。
幸楽窯の特徴を簡単に言えば…
一般お客様向けの幸楽窯の顔はこんな感じですが、実はこの窯元の真骨頂は、その裏側を支える屋台骨にあります。わたくし(ゆるり散歩堂)の個人的な捉え方になるかもしれませんが、次のように幸楽窯のアウトラインを概観しました。
本来、有田焼の地域的な事業構造の特性は、簡単に言えば、細分化された分業構造と、固定化された流通構造にあります。幸楽窯の特徴は、これまた簡単に言えば、この地域特性の逆を行っているとも言えます。つまり、分業の全工程を自社に取り込む一体型のモノづくりの仕組みがここにあります。
それと販路について、従来、有田の事業者には、問屋(有田では商社と呼ばれます)を経由した百貨店や小売店への第一ルートがあり、次に旅館、ホテル、料亭など(器を日常的に使う)業者向けへの第二ルートがありました。これらの販路が、殆ど固定化されていたところに、有田焼全体の凋落の一因があったとも言えるようです。幸楽窯が、その逆を行っているという意味は、第三のルートとして、提案型BtoB(企業向けのオーダーメイド的販売)を実行している点にあります。
そのコラボのお相手は、食品会社や化粧品会社、病院など多岐にわたっており、オリジナル商品やノベルティグッズなどニーズに応じた物販事業で実績を積み上げています。コラボ企業の実例です>>>
外の空気を入れる徳永社長の狙いは…
ところで自社内に一気通貫のモノづくりの仕組みを持つと、少し心配なことがあります。まずありがちなこととして、企画・開発において自社完結型となり、固定化を招き、社会環境にそぐわなくなることです。そんな心配を、徳永社長は「アーティスト・イン・レジデンス」というアイデアで払拭しました。幸楽窯では、2013年より、さまざまな分野のアーティストを、国内外から受け入れ、制作に専念する場を提供しているのです。そこには宿泊施設もあるので、長期滞在により、幸楽窯&アーティストの互いの化学反応が、企画・開発につながる下地を形成してもいます。
実は、メディアなどで周知されている「トレジャー・ハンティング」のアイデアも、当時、コーディネーターとして活躍していたブラジル人のビメンタさんの発言がヒントになったものでした。
私たちのメンバーであるジェレミーさんも、現在、この幸楽窯で「レジデンス・コーディネーター」というタイトルにより、アーティストや陶芸家のみならずマルチな活躍をしているわけです。
幸楽窯のSDGsとは?CSRとは?
さて、幸楽窯の将来を示唆する「理念」の中には、社会的な先端概念であるSDGsやCSRがあります。SDGsとは、持続的な開発目標のこと。CSRとは、企業の社会的責任のことです。どちらも密接につながっている概念であり、わたくし流にこのふたつをまとめればこうです。
会社も人と同じで、お互いにおかげ様で生かされている存在だから、周りのお相手様に恩返しし(CSR)、そしてずっと生き続けていくためには、一定のルールが必要だよね。最低限、それを守るのが生存条件かもね(SDGs)。
これらの取り組みも、すでに幸楽窯では先行しているわけですが、その象徴的なモデルのひとつが廃棄物削減に貢献する「トレジャー・ハンティング」でもあります。また工場建屋の広々とした屋根を用いたソーラー・プロジェクトも環境対策のひとつでしょう。2011年の東日本大震災のときには、徳永社長の発想はこうでした。モノを送って人を助けるのではなく、人に直接手を差し伸べるということ。つまり、大堀相馬焼の被災した職人さんを呼び寄せ、職場を提供するという方法を選んだのでした。
モノからコトへ。さらに…
以上の幸楽窯の概観から、その背骨を形成する心棒が見えてきます。すなわち、マーケティング用語で言われる「モノからコト 」という考え方であり、さらに徳永社長の言を借りながら、次のような言葉で結びとさせていただきたいと思います。
モノからコトに進むには、やはり「人」が介在しなければなりません。「コトづくり」は多くの人とシェアして作ること。他人事を自分事に置き換えて、まずやってみるのが一番先決かなと思います。
経営理念、企画・開発、生産、販売、提案型BtoB、各種イベント展開、いずれの場面にも「人」が不可分に介在すること、見逃せません。